分権時代の自治体法制

政策法務研修

政策法務とは何か

地方自治の本旨の実現のために、住民の福祉向上の観点から、何らかの対応が必要と考えられる政策を、憲法をはじめとする関係法体系のもとで、いかに合理的に制度化・条例化するか、適法・効果的に運用するかに関する思考と実践

上智大学教授北村喜宣氏の政策法務の定義

講義内容の一例

1 従来型(準則・一律型)の法制執務からの脱却

〔現状〕

・自部門の所管している業務に関連する個別法規の反復的執行の範囲内でしか、法律との接点を持っていないといった状況ではないか?

・法律の政策的運用に消極的であり、従来の法律理論や国・県の法律解釈に忠実であろうとするあまり、条例・規則の制定改廃時に硬直的な判断や対応しかできないといった状況ではなかったか?

arrow_down

〔今後〕

・多様な住民ニーズに対応した政策を推進するために、独自の法律選択や法律解釈を検討する。

・独自の政策課題解決のために、拡充した条例制定権(立法権)を積極的に活用する。

・住民参加による新たな立法過程を構築する(パブリックコメント手続の導入 等)。

・行政横断的な課題解決のために、全庁的な立法検討体制の整備

・住民の誰もが活用できる、利用者本意の実効性のある条例づくり

職員の政策法務能力の向上

政策法務能力とは?

①自部門の施策及び業務の根拠法等を把握・整理する。

②地域の課題、自部門の課題を把握分析する能力を備える。

③課題解決のための施策立案及び業務改善提案を行える能力(政策形成能力)を備える。(※財政的な裏付けの確保と他部門との調整も必要となる。)

④施策の実施及び業務改善の実行に際して、施策及び業務の安定的・継続的な実施を図るために必要な条例・規則を立案する能力(立法能力)を備える。

(その際に、制定・改正する条例・規則が根拠法に違反していないか、法令を読み解き解釈する能力(法制執務の基本能力)は不可欠となる。)

2 条例・規則の機能と役割分担

1 地方自治法第14条第2項の改正

<改正前>

地方自治法第14条第2項
普通地方公共団体は、行政事務の処理に関しては、法令に特別の定があるものを除く外、条例でこれを定めなければならない。

arrow_down

<改正後>

地方自治法第14条第2項
普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。

侵害留保の原則

行政の活動範囲のうち、私人の自由・権利を侵害する場合には法律の根拠を必要とする原則

◇法律-政令-省令

委任命令(法律の委任に基づく規定)
執行命令(法律を執行するための必要な細則)

◇条例-規則

条 例 …… 地方自治体の議会の議決により制定(地方自治法第14条第1項)
規 則 …… 地方公共団体の長の権限で制定(地方自治法第15条第1項)
※規則は条例と並ぶ法形式である。(親子関係の条例規則は別。)
(分権前は権利義務事項についても規則等で規定していた。)

◇地方自治法14条2項に該当するかの判断基準

・許認可等の行政行為の附款に当たる場合は、当該許認可等の範囲内として権利義務事項に該当しない。
(行政行為の附款 = 許認可等に対して、条件、期限、負担などの一定の制限を設けること。)
・給付行政に関する事務については、給付等を受けるかどうかは本人の自由意思に委ねられていることから、権利義務事項には該当しないと考えられる。
(給付行政に関する要綱等を住民の権利として位置付けることが今後の課題となる。)
・庁舎管理等の長の管理権に基づくものは、権利義務事項に該当しない。

2  条例・規則の枠組みづくりの必要性

◇総論から入る権利義務事項の点検
地方分権の本来の目的とするところは何か?

市民への分権 = 住民自治の充実

市民に分かりやすい条例・規則の整備を目指す

条例等の整備方針の策定へ

市民のための条例・規則であるということを念頭に置くと、
「手続等の一定の作為を求める場合のように市民に何らかの影響を与える事項」を法規範上の一覧性なども考慮して条例化する。
地方自治法第14条第1項
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。
<参考>地方自治法第2条第2項
普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

◇条例整備の3プラス1の視点
①「独自の法解釈権」の下、
②「地方自治法第14条第1項」の視点により、
③「すべての事務」を対象に条例制定を検討する姿勢で継続的に臨む。
条例の検討に当たっては、常に ④「市民の視点」を念頭に進める。

ページ上部へ戻る